世の中にはよく似た言葉があって、「おざなり」と「なおざり」もそのような言葉のひとつです。
意味も使われている文字も何となく似ているので、どちらを使えばいいのかいつも紛らわしく感じます。
ただ言葉を分解して考えてみれば、その成り立ちが何となく判ってくるものです。
それぞれの言葉について、ちょっとだけ考えてみました。

「おざなり」と「なおざり」
まずは国語辞典で「おざなり」と「なおざり」について調べてみました。

おざなり【御座なり】<名・形動>その場だけの間に合わせ。いいかげん。
なおざり【等閑】 <名・形動>(物事に)注意をはらわないこと。いいかげんにしてほうっておくこと。おろそか。等閑(とうかん)。
学研 現代新国語辞典 改訂五版 編 金田一春彦・金田一秀穂
金田一秀穂さんは、NHK高校講座「ベーシック国語」で先生役をされている方です。
どちらの言葉にも、2つ目に「いいかげん」という意味が含まれているので、紛らわしいのも当たり前です。
ただ全体的な意味合いが、微妙に違っています。
一方の「おざなり」は、いいかげんながらも暫定的な対処をしています。
他方の「なおざり」は、大したことをしないまま放置しています。
古語辞典で調べてみる
国語辞典を調べてみれば、それぞれの意味が判るものの、違いを覚えるのはやっぱり難しいです。
ということで、つぎは古語辞典でそれぞれの意味を調べてみました。

おざなり
古語辞典で「おざなり」を調べてみようとすると、驚くことに載っていませんでした。
最初の「お」は、尊敬・謙譲・丁寧の意をあらわす接頭語なので、そもそも付かないようです。
ざなり【座なり】(名)その場の都合にうまく合わせること。まにあわせ。おざなり。
旺文社 古語辞典 第十版増補版 松村明・山口明穂・和田利政 編
現代と同じ意味のようで良かったです。
さらに細かく調べていきますが、「なり」は名詞化した動詞の連用形なので、終止形「なる」を調べます。
ざ【座】(名)1. 座るときに敷く畳など、敷物の総称。また、座る場所。座席。2.(省略)3. 集会の席。
なる「成る」(自ラ四)1.(自分の力によるのではなく)成り立つ。実現する。できあがる。~
旺文社 古語辞典 第十版増補版 松村明・山口明穂・和田利政 編
つまり「おざなり」とは「集まりの中だけで成り立つこと(=その場かぎり)」を意味しています。
接頭語の「お」は無くても構わないので、「ざなり」だけで覚えておけば紛らわしくないでしょう。

なおざり
古語辞典で「なおざり」を調べてみようとすると、「なほざり」を調べるように誘導されました。
2文字目の「お」は、現代仮名遣いのようです。
なほざり【等閑】(名・形動ナリ)1. おろそか。かりそめ。いいかげん。
旺文社 古語辞典 第十版増補版 松村明・山口明穂・和田利政 編
こちらも現代と同じ意味のようで良かったです。
さらに細かく調べていきます。
なほ【猶・尚】(副)1. 前と同じ状態で。やはり。依然として。2. そのまま何もしないでいるさま。
ざり[組成>係助詞「ぞ」+補助動詞「あり」=「ぞあり」の転]…である。
旺文社 古語辞典 第十版増補版 松村明・山口明穂・和田利政 編
つまり「なほざり」とは「そのまま何もしない状態であること(=放ったらかし)」を意味しています。
あまり良い覚え方を思いつきませんが「なおそのまま」とでも覚えておけば良いかも知れません。

あとがき
日本語には似たような意味の違う言葉がたくさんあります。
そもそもは違う意味だったのかも知れませんが、長い間に意味が似通ってしまったようです。
そんなときは、古語まで遡(さかのぼ)って考えてみてはいかがでしょうか。
もしかすると、謎が解けるかも知れません。
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