相続が開始したとき、被相続人の所有した建物に、配偶者が住んでいた場合には、ある権利を手に入れれば、配偶者はその建物の全部を無償で使ったり商売したり出来るようになります。
その権利を「配偶者居住権(はいぐうしゃ きょじゅうけん)」といいます。
配偶者居住権に関する法律の施行期日は、2020年04月01日です。
これまでは、被相続人の所有した建物に、配偶者が住むためには、その建物を相続する必要がありましたが、配偶者居住権を手に入れるだけで、その建物に住めるようになります。
これまでの制度では
これまでは、民法の法定相続分の規定を元に判断されていました。

同じ優先順位の相続人が複数人いるときは、それぞれの相続分は次のようになる(民法900条)。
- 配偶者と子が相続人であるときの相続分は、配偶者が 2分の1、子が 2分の1 とする。
- 配偶者と直系尊属が相続人であるときの相続分は、配偶者が 3分の2、直系尊属が 3分の1 とする。
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人であるときの相続分は、配偶者が 4分の3、兄弟姉妹が 4分の1 とする。
- 子または直系尊属、兄弟姉妹が複数人いるときの相続分は、各自が等分とする。ただし片親が同じ兄弟姉妹の相続分は、両親が同じ兄弟姉妹の相続分の 2分の1 とする。
簡単にいうと
被相続人の遺産は、不動産であろうと金融資産であろうと、すべて資産価値に換算したのち、遺産分割するということになります。

考えられる問題点
たとえば相続人が配偶者と子であって、次のような場合、配偶者には住む建物がありますが、生活費に困ることになります。
- 被相続人の所有した建物と預貯金の資産価値がほぼ等しいときに、配偶者がその建物を、子が預貯金を相続した場合。
- 被相続人の所有した建物以外には資産がほとんど無かったときに、配偶者がその建物を相続し、その建物の資産価値の半額を子に支払う場合。
配偶者居住権の新設
民法の改正によって、配偶者居住権が法律で新たに規定されました。

相続が開始したとき、被相続人の所有した建物(以下、居住建物)に、配偶者が住んでいた場合、次の項目に当てはまるときは、配偶者は居住建物の全部を無償で使用したり収益したりする権利を手に入れる(民法1028条1項)。
- 遺産分割によって、配偶者居住権を手に入れることになったとき。
- 配偶者居住権が、遺言によって贈与されたとき。
ただし相続が開始したとき、被相続人が居住建物を配偶者以外の人と共有していた場合は当てはまりません。
簡単にいうと
相続が開始したとき、居住建物に配偶者が住んでいた場合には、配偶者居住権さえ手に入れられれば、居住建物を相続しなくても無償で住んだり商売したり出来ます。

解決された問題点
配偶者は、被相続人の所有した建物を相続した訳ではなく、配偶者居住権を使って住むので、その他の遺産を手に入れられることになり、生活費に困りにくくなります。
使用および収益上の注意点
居住建物は、居住建物の所有者から借りているので、使用および収益上の注意点があります。

配偶者が次の項目に違反したときは、十分な猶予期間を与えて改善するように促し、それでも改善しなかったときは、居住建物の所有者が配偶者に意思表示することによって、配偶者居住権は消滅する(民法1032条)。
- 配偶者は今まで通り大切に、居住建物を使用したり収益したりしなければならない。
- 居住建物を改築したり増築したり、第三者に使用させたり収益させたりするときは、配偶者は居住建物の所有者の承諾を得なければならない。
なお配偶者居住権は他人(ひと)に譲り渡せません。
あとがき
配偶者居住権が民法で明確に規定されました。
法律が施行されれば、配偶者は居住建物を相続することなく、住み続けられます。

ただ配偶者居住権は、相続開始のときに居住建物に住んでいたとしても、配偶者が自動的に手に入れられる訳ではありません。
そもそも被相続人や共同相続人が、配偶者居住権の存在を知らないとならないので、その点もすこし心配です。
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